見てよかった「詩のボクシング」

番組の細部や発言の詳細、詩の内容については、残念ながら録画するのを忘れていたため、正確ではありません。録画しなかったことをすごく悔やんでいます。
 ETV特集「燃えろ!声と言葉の格闘技・詩のボクシング・第4回全国大会」(再放送)を見た。
 優勝した林木林(きりん)さんの決勝戦の詩は圧巻だった。
 そもそも彼女は、こういっちゃなんだが、初めから他を圧倒していた。番組を見ている限りそう思ったのは僕だけではないようで、屋台のセットから試合を観戦していた佐々木幹郎やテレビ番組の中でコメンテーターとしてMCの小林克也の隣に座っていた高橋源一郎なども、カメラの手前そうとは言わなかったものの彼女を一番評価しているのは明らかで、それぐらい彼女はずば抜けていたのだ。
 それはもちろん、まさに『ちびまる子ちゃん』のなかに出てくる「野口さん」そっくりの、ピンクのシャツに白地のニットベストを着て丈の長いスカートを穿きくるぶしの少し上までのピタッとした無地の靴下を履いた猫背で緊張に強ばった顔に長い前髪のかかったキャラクター*1の口から出る、「よろしくお願いします」で始まる諧謔的でニヒルな詩が会場の笑いを独り占めしたということからだけでなく、その才能の高さ、彼女の詩の独自性が十二分に発揮されていたからであった。
 決勝戦の詩のことを書く前に、それまでの彼女の詩がどういうものだったかというと例えばこんな感じ。「私は今度生まれ変わるとしたらおじさんになりたい」で始まる準決勝の詩は、「西に西日を浴びた同僚がいれば今日は奢るよといって誘い」「北にリストラあれば、いってもっとマシな仕事があるさと励まし」といった感じで居酒屋のおしぼりで首元まで拭う中年サラリーマンの生態を謳いあげ、「そういうおじさんに私はなりたいと思う」でしめる「アメニモマケズ」のパロディで、会場のみならず、頭の薄くなった佐々木氏や小林氏をガッハッハッハと笑わせる。
 これだけを読むと発想勝負の奇を衒った作品のようにも思えるけど、それはひとつひとつの言葉の選び方や描写の仕方のうまさに裏打ちされたおもしろさだった。画も浮かぶし、第一嫌味がない。微に入り細に穿った言葉への気配りあってのパロディであり、やはりこういうのをセンスがあるというのだろうなと思った。
 そういった試合運びの中で彼女が最後に用意した詩はまさに懐刀といったところで、それまでの独特のキャラクターと相まって会場の笑いを誘っていたユニークな作風から一転、小さいころ水と木の漢字を読み間違えていたという告白によって始まる「水と木と」は、日常の水に関するもの(水たまり・水面の波紋・水道・海)と木に関するもの(樹木・年輪)を次々と反転させ幻想的な光景を浮かび上がらせ、最後は「地球」を「木の惑星」に変えてしまった。これには佐々木氏も高橋氏も桂文珍も唸ってしまった。もちろん僕もそう。
 ほんと録画してなかったことが悔やまれてしょうがない。番組が終わったあともう一度彼女の詩を味わいたくってウェブやご本人のHPもチェックしてみたのだが見つけることはできなかった。あ〜、ほんと残念。どこかに発表されてないのかな?
 そう言えば、決勝戦の対戦者が決定したときに誰かが「この組み合わせはまさに言葉と声という対照的な組み合わせになりましたね」と言っていた。確かに林木林さんの相手のセリザワケイコさんという方は非常に魅力的な、というか彼女の朗読のスタイルに非常にマッチした声の持ち主だった(彼女のHPはこちら)。
 で、この発言にも見られるように、「詩のボクシング」の場合、詩という言葉の要素だけでなく、朗読という音声要素も欠かせないのだが、僕がもう一度林木林さんの決勝戦の詩を読みたいと思うのは、彼女の詩が音声(しかも録画なし!)の一回性のもとで、その詩の世界観を僕が完全には再現できなかったということがある。朗読のスピードに僕の想像力がついていけなかったのだ。そして細部が不完全な分、余韻だけがずっと僕のなかに響いているのだ、きっと。
 ところで、以前、今日と同じようにテレビ番組を見終わったあとでその中に出てきた人のHPをネットで見てみると、僕が放送直後にアクセスしたときに2000ちょっとだったカウンターが、ひと通りHPを見終えたころには1万5千を回っていたことがあって、その人を取り上げたブログの記事数も飛躍的に伸びていて、今回もそうなのかなと思って検索してみたらほとんど変わらん(検索結果:これこれ)。やっぱり「詩のボクシング」の放送なんて(しかも全国決勝戦なのに!)『情熱大陸』に較べたら誰も見てないのかなぁ*2。それとも土曜日のこの時間はテレビを見ている人があんましいないとか?
 余談だけど、今回の「詩のボクシング」の審査員のなかに見覚えのある顔がいるなと思ったらなんと巻上公一氏だった(笑)。あの顔はやはり個性的なんだなぁ。個人的には糸井重里氏と巻上氏は同じタイプの顔をしていると思う(どういうタイプの顔かは説明しないけど)。

*1:それが素なのか意図的なのかはわからない

*2:それは、このブログのアンテナにも入っているプロハンドボーラーの田場裕也選手が『情熱大陸』で取り上げられた時のことだった。HPはこちら