お星様は綺麗だけれど・・・

ちょっとすごいんじゃないのこれ?」の、今回はパッチ記事です。よろしければ前回の記事からお読みください。
 前回の文章を読むと、どう見ても、unvisが著名人インタビュー物に採り上げられた一角の自分物たちといわゆる無気力な人たちを対置して、前者を手放しで賞賛しているようにしか読めませんが、あの文章はそういった企画を賞賛するためではなくちょっと腐してみるために書いたものでした。それが文章がマズいせいで、あたかも無気力な人たちを煽っているようにしか読めず書いた本人として相当慌ててしまいました。私があの文章を書いた動機はその日のコメント欄にも書いたのですが、以下のような感じです。

 というのも、いまぼんやりとこの手の企画に対して思っているのは、こういった企画が大量に流布される結果、いまの世相が、非凡でないことが何かとてつもなく後ろめたいものになっているような気がするのです。一種の強迫観念のように、誰もがオンリー・ワンに「憧れさせられている」ように思うのです。
 そして、こういった英雄謳歌で一方的に煽られた結果の挫折というものが、斎藤環さんなどが確か仰っていた(不確かでスイマセン)、ひきこもりのひとは人一倍誠実で努力家で志が高いという話やNEETが働く気力をなくすという話に実は関係してくるのではないか、とぼんやり思っているのです。

 「この手の企画」というのは何も前回挙げた「Mammo.tv〜考える高校生のためのサイト〜」などの著名人インタビュー物だけでなく、例えば、スポーツ番組の海外組の特集や雑誌の特集なども含みます。日々マスメディアから発信されるそういった情報に晒されていきていると、私などは息苦しさを感じてしまい、これはなんだろというのが数年前からありました。
 留意していただきたいのは、そう書いてなお、私はこれらの企画に対して全面的に反対しているわけではないということです。これらの企画自体は未来ある若者たちに先例を示すことでひとりでも多くの人に魅力的で野心的な人生を生きてもらいたいという情熱によって支えられているのでしょうし、マスの「知りたい!」という欲望に基づいていることは明らかなわけでして、それは良いとか悪いとか言えることではではないなと思います。

 ただその結果、風見鶏のようにあっちを向いたりこっちを向いたりして結局前に進めていない自分に苦しんでもいまして、それは自分に確固たる自我がないからなのだろうけれども、けど確たる自分を持たない者に自分を持てと言ったところで無意味なわけで、他方でガンガン焚きつけられて一方的に膨れ上がる自我理想とどうやって折り合いをつけていきなおかつ少しでも成長できるかと考えたときに、まずはこの手の企画に対して斜に構えることで内圧を下げ、凡庸な自分を認めることから始めてみようか、という脱力系が使えるのではないかなと思いました。

 という感じで、こういった企画の存在を否定はしないけれど、それは私のように高度経済成長期に育った両親を持ち、さしたる共同体なき核家族社会のなかで純粋培養されて育った人間には絶大な効力を持つし、かといってこういったものを読んだだけでは自分の適性や能力値が激変するわけでも明らかになるわけでもなく、その結果自我理想だけが肥大化しやがてその重みに耐えられなくなったときにひきこもりやNEETになる可能性はあるんじゃないか(もちろんひきこもりにもNEETにも様々な理由があるわけで一般化できるものではないですが)、そうであるならば戦略的にこういった企画を相対化する必要もあるのではないかという風に考えていました。
 また一方では、この手の企画を善意でもって運営している方々はそこまで気を使う必要はないにせよ、多分こんなことは考えたこともないだろうという邪推もあります。さらに言えば、この種の発想は「ガンバレ!ガンバレ!」しか言えない人たちと同根だと思うし、それはまるっきり明治維新以来の「追いつき、追い越せ」や高度成長期の風潮を彷彿とさせますし、個人的にはなんとなく前時代的だよなぁと思うわけです。もちろんそれに感化されている自分は明らかに前時代のOSを積んでいる人間なわけですが。ただ、この話は敷衍していくと、共同体なきポストモダンにおけるこの手の発想の功罪なんていうところまで転がっていきそうな気もするのですが、現段階では勇み足かなと思い自粛します。
 と、ここまで書いたものを読み返してみると、まったくどうでもいいことに見当違いな批判をしているようにも見え、あるいは頑迷な老人の苦言のようにも、またネガティブパワー全開の厭世家のようにも見えますが、まあそうなのかもしれません。ただ、無邪気な情熱というのには何か違和感を覚えますし、それ以上に、いまの時代を頑張って生きていきたいと思っている人間が現状でどうやって社会や自分と折り合っていくかを考えたときに局地戦的戦術としてこういう見方もアリかなと思ったことを天衣無縫に書いてみたのだなとご理解いただければ幸いです。で、切腹〜!